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2005年1月28日(金)

赤坂「と村」 究極のゆで蟹 1月28日


 この時期、和食屋さんを華やかにする食材がたくさんある。河豚とならんで主役は「蟹」。いわゆる日本海側であがる「ずわい蟹」である。山陰地方(多分京都から西)では、「松葉蟹」と呼ばれ、福井から東では「越前蟹」と呼ばれる場合が多い。これは、北海道や他の地方であがる「ずわい蟹」とは違うもんですよ、という自信の表れと同時に、例えば「関サバ」のようなブランド形成の為であろう。最近では「間人蟹(たいざがに)」が有名である。間人の船は小さく又、漁場が沖から30キロ程度と近いため、捕ってすぐ帰ってくる。その新鮮さが他の漁名とは違うという誇りがある。大間のまぐろのようなものである。漁師のこだわりと気持ちが味とブランドを形成している。

 まあともかく蟹といえば、「ずわい蟹」である。よく「たらば蟹」が蟹の王様と言われるが、それはいかがなもんかと個人的には思っている。多分、大きさで「たらば蟹」が評価されているのであろうが、味はやはり「ずわい蟹」である。あの身のジューシーな味わいと歯ざわりは、他には絶対にない。小生は北海道でもタラバはまず食べない。食べるとすれば、特大の「毛蟹」を選ぶ。

 しかしこの「ずわい蟹」、とにかく高い。なにせ浜値が2万5千円から3万円というから、東京のお店にくる時にはまあ6、7万円という事になるのであろう。「と村」のご主人も「蟹ははっきり言って儲けはありません。ほぼ仕入れ値で出しています。でもこの時期には、年に1回、この蟹を食べに来るお客さんもいるぐらいですのでやめる訳にはいかない。」と吠える。地元の方へ行けば、同じ蟹であるが、例えば、脚が1本取れているようなものを半値ぐらいで買う事ができるので、これが一番、賢い買い方であろう。

 さて蟹の食べ方であるが、これは間違いなく、茹で蟹が最高である。案外、生のものをゆでて食べるよりも、浜茹での方が身がうまい。蟹はあげるとすぐに身が痩せていくせいである。

 さて先日、「と村」さんが、「山村さん、三国でかなり有名な蟹屋へ行って食べてきました。本当に感動しました。」と言う。この辛口の親父が旨いと言う蟹とはなんぞや? 興味が深々わいてきた。「でも高かったですよ。店には蟹しか無いんです。本当に。5人で30万円でした。三国でですよ。」うーーん、それは貯金箱を割っても行かねばならぬ。なんとしてでも。と思っていたら、「それを食べますか?」という誘い。「へえ、できるのかい?」「ではお出ししましょう。」という事でわくわくしながら蟹を待った。

 出てきた蟹は一見なんの変わりもない。しかし、いつもなら身を切って食べやすく出されるのが京料理であるが、今日は脚を大胆にちぎっただけである。主人が言う。「山村さん、がぶっとかぶりついて下さい。」言われた通りかぶりつく。「う、旨いーーーーーーーーーーーーーーーーー。」「なんじゃこれは。味が違う。」何と言うか、芳醇な味わい。よく蟹味噌につけたりして食べるが、その必要が全くない。いつもなら蟹味噌と一緒に出す戸村名人も身しか出さない。(のちに出てきた蟹味噌が旨かったのはもう言うまでもないし書くまでもない。)
「なんですか? これは。」
「実は山村さん、茹で方にポイントがあるんですよ。実はこれを茹でているのはただの湯ではなく、蟹の出し汁なんですよ。この出し汁にこっぺ蟹なんかの出汁がでているんですが、その出汁で茹でているんです。でもこの出し汁は普通じゃ絶対に作れません。大量に蟹を扱えないとできません。」
「あんたにも、できないもんがあるのかい?」
「物理的にできないんですよ。」
「じゃあ、この出汁は?」
「それは内緒です。」
というこの蟹。食べながら身を吸うのである。するとこの汁と一緒に食べる蟹が、もう最高に旨いのである。あの小籠包のようなスープの旨みが、蟹を最高の状態に引き上げている。であるがゆえに切らずに出てきたのである。いやあーー、参りました。今年、最大の感動であった。これが食べられた事を神に感謝したい。

 そしてこの究極の、和食料理人の戸村一男氏の旨さへの探究心。この地位にありながら現状に満足しないこの男。まだまだ底が見えない。いま一番乗っている料理人である。

山村幸広

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